エチュード






「笙子はさ。高等部に進んだらお姉さま、持つ気があるの?探すの?」
「え?・・・スール?」
「もう心当たりがあるとか?笙子は美人さんだから、もう目をつけてくれている人とか、いるのかな」
「ううん、そんなこと・・・、ないよ。まだなんにも、考えてない」
「まあ、そんなことだけを目的に学校に行くわけじゃないし、それじゃ困るんだけどね」


 姉は変わったのかもしれない。

 二週間前のバレンタイン・デー、笙子が姉の制服を着て高等部のイベントにもぐりこみ、勘違いから山百合会の黄薔薇さまとおいかけっこをして、結局姉に助けられた日。姉の克美は受験帰りだった。その日とあわせ、姉は4つの大学を受けてそのうち3つに合格した。
 本命としていたところの発表は一番最後で、それまではどうにもぴりぴりした空気が続くんだろう、と覚悟していたのは笙子だけではなく、たぶん父も母もそうだったと思う。
 夕ごはんの時間からテレビの音のボリュームまで、姉のご機嫌をうかがってからじゃないと決められない。ことに姉が三年生になってから強くなった家の雰囲気。外で働いている父より、母よりも、何より受験に望む姉が家族の中心みたいに振舞っている、そんな状態。もちろんただの中学生で妹の笙子に、発言権なんて一切認められるはずもない。
「笙子、ごはんだよ」
 いつだっただろう。バレンタインから数日経った夕方、姉の試験はすべて済んで、けれどまだ最初の合格の知らせも来ていないころだったように思う。机の前でぼんやりしていた笙子を呼びに来た姉に、その声音になのか、あるいは目つきにだったのか、とにかく笙子は「あれ?」と思ったのだ。
 ひどく浅い眠り、夢ともつかない夢から覚めたようなかすかな、違和感。

 心なしか、よく笑うような気がする。
 心なしか、お喋りになった気がする。
 どこまでも「心なしか」がつきまとうあやふやさで、笙子の色眼鏡なのかもしれないけれど、色眼鏡越しに見る家の雰囲気も、父や母の様子も、姉の変化にあわせて変わってきたように思えるのだ。
 笙子はといえば、姉をとりまく空気にじわじわとなじんでいきながら、それでもどこかで、ほんのちょっとしたこと、ささいな自分の失言や失敗で、また元の気難しく小言の多い姉が戻ってきて、皮肉っぽい笑いで足をすくわれるのではないか、というおそれに襟首をつかまえられていた。だから、
「これ、面白いの?」
なんて、家族で笙子しか興味のない番組に見入っているとき、気軽にそう声をかけて隣に座り込んで、あれこれ番組の中身についてたずねてきたりする、これまで見たこともない姉に出会ったりすると、笙子のどっちつかずの気持ちはまごついてしまう。とてもじゃないけれどテレビの画面になんて集中できない。
 かすかに残る違和感は、私のそういう臆病によるもの。――そう思いこんでしまえばそれでも、だんだんと距離のとり方がわかってくる気もする。どんなことを話せばいいのか、そんなことすら迷わずに済むようになってくる。

「お姉ちゃん」
「うん。考えてみれば、笙子はずっと『お姉ちゃん』って言い続けてきた立場なんだもんね。いまさら他の誰かを『お姉さま』なんて呼びたくない?」
「そんなこと、ないけれど。姉妹制度、興味あるし」
「ああ・・・、まあ、変わってるわよね、やっぱり、リリアンって」
「うん・・・」

「笙子。ダメよ、あんなミーハーなものに浮かれていちゃ」と、いつものようにやりこめられるかも、と思ったから笙子は口をつぐんで隣の姉の目を見上げたのだ。
 それなのに、笙子の目に何を感じたのか、「私に聞いてもダメよ。スールとか、持たなかったんだから、わからないの」、とかすかに苦笑いをうかべた姉は、かかえた膝にあごを埋めるようにして、ぽつりぽつりと話し始める。
「ロザリオの授々の場面はね、あ、姉妹の契りとやらに必要なやつね。見たことがあるわよ。マリア像の前とか、中庭とか。誰もいない体育館の真ん中でやってる二人もいて、あれはびっくりしたわね・・・」
「ロザリオ?お姉さまが、妹の首にかけてあげるんだよね?」
「うん。私が見たときはまさに、お姉さまになる方がロザリオを高く掲げててね。私が無遠慮にドアをあけたものだから二人ともその格好でこっちを見てるのよ。まったく、気まずいったらありゃしない」
「あはは。それ災難だね、お姉ちゃん」
 黄色い夕焼けが遠い空でぐずぐずするような日暮れ時、テレビもつけない居間のソファにならんで、そんなふうに姉と過ごすことが、笙子には多くなった。学校から帰ったきりで制服を着たまんまでも、姉は怒らない。蛍光灯をつけるために立ち上がる動作もなんだか邪魔くさく、じりじりと心にたなびくなつかしい気持ちをはさむように、二人で前を向いて延々と口を動かしている。買い物に出ていた母が帰ってきて、驚いたように小言を言うまで、それはつづく。
 全部の試験の合否が出そろう前から、姉は大学に進んだら、家を出て一人暮らしをする、と宣言していた。聞いたときには「ふーん」としか思わなかったことが、日に日に笙子の中で像を結びはじめていた。十数年一緒に暮らしてきた姉。でもひょっとしたら、もう再び一つ屋根の下で暮らすことはないのかもしれない、ということ。
 一緒に暮らさなくなっても家族は家族。それは間違いないけれど、でもそれ以外の形を笙子は知らないのだ。
(お姉ちゃんは、きっと少しだけ、「他人」になってゆくんだ)
 少しだけ遠のいた感のある姉、いままで意識もせず、むしろ欲していたかもしれないその距離こそ、違和感の正体だったのかもしれない。のんびりとその結論にたどりつく自分というもの、笙子はいらいらしながら待っていた。 

「どうだった?」
「なにが?」
「妹をずっとやってきてさ。私みたいな偏屈な姉の妹を長年つとめてきた感想はいかがなものでしょうか?なんて、私でもたまには思うのよ」
「なあに、それ。へんなこと聞くね、お姉ちゃん」
「あんたがさ、高等部に進んで『お姉さま』をつくらなかったら、それはちょっと実の姉として責任を感じるかなあ。お姉ちゃん、にはもうウンザリしてます、そういう気持ちなのかなとか思うじゃない」
「そんな。そんな・・・私だって、私こそ」
「まあ、あんたが意外と勉強してるのは知ってるから。あとは基本的に、笙子の好きなようにやればいいと思うんだけどさ」
「私は・・・」

 こういうやりとりの最中、笙子はときどきたまらなくなる。



    ***



 ふと目がさめた。
 いやに区切りのいい目覚めの境で、ぷつりと途切れたリアルな夢のようなもの、見たかどうかもわからないそれをかけらも思い出せないことに、起き抜けの無防備な笙子の気分は、しぶとく食い下がっている。
 ベッドの中で身をひねって壁の時計を確認すると、二時を少しまわったばかり。窓に映った明るい夜に照らされて、カーテンのレースの模様が、万華鏡の色彩のように、反対側の壁一面にひろがって、かすかに明滅している。
 あと数時間で夜明け。さらにその数時間あとには、姉はリリアン高等部の講堂の壇上に立っていることだろう。
 今日は高等部の卒業式なのだ。
 当日の夜はどうしても仕事で遅くなる、という父の都合にあわせて、昨夜笙子の家ではささやかに卒業のお祝いが開かれた。
「そういうの、いいから」と、久しぶりに気難しい顔をした姉も、めずらしく強く出た母に逆らうことができないで、しぶしぶといったふうに夕食の席についたのだった。
 けれど、ご馳走は美味しくて、テーブルの上は和やかで。父にすすめられてちょっとだけワインを飲んだ姉は豪放な王様のようにどっしり構え、その口からはこの三年聞いたこともない高等部での話がすらすら飛び出すものだから、父も笙子もそろって身を乗り出し、皿の料理が冷めることを何度も母に注意される始末だった。
 食卓の明かりの下で何度か視線がすれ違うたび、笙子はどこか遠いところを見るような姉のそれを、無駄と思いつつも追いかけてしまっていた。
 順々にお風呂をつかい、笙子が布団に入ったのは一時少し前だった。わずか一時間ちょいで目が覚めたわけで、何が原因だったのだろうと思う。
(緊張していたわけでもないと思うけれど)
 別に今日卒業するのは自分というわけでもないのに。笙子たち中等部の卒業式は、あともう少し先なのだ。 
 胸元まで下がっていた掛け布団を肩口までひきあげ、ほ、と息を吐くと、部屋の中空でそれはかすかに白くかすんで、すぐに見えなくなる。
 瞼をおろしたそのとき、ドアの外、おそらくすぐ前の廊下のあたりを踏みしめるような音がして、笙子は体をかたくして耳をすませた。
 廊下の足音もなくいきなり聞こえてきたから、家のきしみかな、と考えたところでドアノブの回る気配がして、笙子は開きかけた目を閉じて、毛布に口元を埋める。
「笙子?」
 姉の声だ、と笙子が気づく間にも、するすると絨毯を踏んでくる足音、かすかな息遣いと姉の衣服のこすれる響きに、目を開けようかどうしようか笙子は迷う。
「笙子」
 もういちど、さっきよりは小さく、しかし近いところから声が降ってきた。笙子が寝るときに居間で母と何か小声で話していた姉の姿を見た気がする。少なくとも笙子よりは遅くベッドに入ったはずで、あるいはそのまま起きていたのだろうか。
「寝てるよね」
 その一言は、さらに近く笙子の額あたりから聞こえたから、笙子は完全に目をあける気をなくして、眠ったふりをする決意をしたのだった。深夜のこんな時間に姉が自分の部屋にやってくる理由の想像はつかないし、これまでにもなかったことで、その先どうなるのか予想できない不安がびっしりと心をうめて、身動きがとれなくなっていた、という方が近いかもしれない。
「笙子・・・」
 また、名前を呼ばれて、それと同時にさあっと首筋から肩にかけて冷えていく。掛け布団をめくられたんだ、と気づいて、動いてしまいそうになる表情をあわててせきとめる。大丈夫、たぶんまだきっとバレてはいない筈。
(なに?お姉ちゃん、何をしに来たの?)
 心の中を斜めに駆ける叫びを、笙子は努力して呑み下す。ほんのりと、姉の体温が少しずつ部屋の空気に溶け出して、笙子のまわりで広がっていくのが、目を閉じていてもわかる。
 しばしの沈黙と静けさのあと、頬骨のあたりにだしぬけに体温を感じて、笙子はあやうく目を開けそうになった。肩から喉にかかった笙子の髪を、耳の脇の髪を、前髪を、姉の手がそっと持ち上げてその指の間で濾しとっていく、そんなイメージをともなった感覚が伝わってくる。顔の傍で小さな蝶がはばたいている、そのくらい慎重な動作の繰り返しに、段々と笙子の気持ちも落ち着きを取り戻していく。ときどき肌に触れて離れる姉の指先は思っていたより温かくて、火照ったように熱を帯びていた。
 それからまた、目を閉じた闇の向こうで姉の動きが止まる。気配も消えたような沈黙の中で、かすかに聞こえる息遣いが、姉がまだ部屋から立ち去っていないことを示している。その息遣いに、わずかに変わった調子が混じるような気がする。
 きれぎれに響く笛の音のようなそれは、笙子自身にも馴染みのある、何かの感情の動きを示しているように思えた。
 話疲れたあとに出るため息のようなそれにつづいて、くぐもった音が聞こえて、笙子の記憶はたちどころに皮肉っぽい笑みをうかべたおなじみの姉の目つきを取り出してくる。
「・・・・・・はは。まったくね」
 今度はちゃんと笑いを含んだ声が聞こえて、理由はわからないけれど、泣いていたわけじゃないんだ、と気づいたところで笙子は追い詰められた気分になる。起きているんだよ、と白状するならこのあたりしかないような気がしたのだ。
 思い出したようにたっぷりと、けれどゆっくり息を吸い込んだところで、瞼の上がうすく翳り、同時にベッドの両端がたわんでぎしりと音を立てる。笙子に覆いかぶさるように、姉はベッドに両手をついたのだ。左右のくぼみに流れかかる腕を引き締めて、笙子は再び息をおさえて意識をすくめる。
 姉は私が起きていることにちゃんと気づいているのかもしれない。そう思えるほど、さっきにくらべて大胆な動作だった。笙子が起きていることを承知でいるなら、あくまで寝た振りをしているのがこの場合、姉に恥をかかせない、一番の方法のように思えた。
 姉の体温と重量は、笙子の頭上にぴたりと静止して動かない。音もしない。ただ知らぬ間に窓の外に降る雪片のように、ゆるやかに降り注いでくる何かを笙子は感じていた。体温なのか、吐く息なのか、額におちかかるそれを、笙子は不快には感じなかった。もし目を開けたなら、声にならないつぶやきをつむぐ姉の唇が動くところを見ることができる、そんなことを思った。
(お姉ちゃん)
 ふっ、と何の脈絡もなくうかんだ光景は、ぴかぴかに魚の鱗のような照りを放つ大きな赤いランドセルが、目の前で上下している、というもの。
 それは姉の背ということはすぐにわかる。笙子の記憶がそう告げる。実際に見た光景なのかは確信は持てなかったけれども、姉の背について歩く視点、つまり笙子自身の、焦るような、怖いような、ひどく小さく折りたたまれた感情だけがきっと現実より誇張されて、よみがえってくる。
 どのくらい昔のことなのか。姉にくらべてやけに低い目の高さから、笙子は目の前で揺れるランドセルの、カバーについたサヤエンドウみたいなメーカーのマークと、はるか高みで振り返りもしない姉の真っ黒な後ろ髪ばかり、ひたすら視線を往復させている。道のまわりの風景は見えてこない。まったくの白い光につつまれた世界の真ん中で、気味がわるいほどひろびろとしたアスファルトの道は、いつまでも続くように感じられる。姉のランドセルからは、筆箱か定規か、揺れにあわせてカタカタと、硬質な音が聞こえるばかり・・・。
 ベッドの両脇からすばやく姉の重量が消えた。さっと瞼の闇を解放して、笙子の部屋の灰色のかがやきが戻ってくる。それと同時に、笙子の胸元に何かが置かれた重みが伝わって、そしてすぐにドアの音がした。
 肩を冷やす冷気に耐えて、たっぷり一分はじっとしてから、笙子はおそるおそる目を開けた。
 部屋にはもう姉の姿はない。廊下からも、その向こうの姉の部屋からも、彼女の痕跡は何も感じられなかった。
 身を起こそうとした笙子の胸元を、水のようにつめたく何がが流れて、笙子ははじめて「ひゃっ」と小さく声を出してしまった。
 パジャマの隙間にもぐりこもうとする動きに驚いて、あわててつかみあげた笙子の手の中で、なおもそれはいきいきと、指の間から抜け出そうとするかのようだった。
 カーテンを引きあけて、握った手を窓にむけてかざす。
 夜の淡い光を一身にまとうように、銀色のしぶきがきらきらとこぼれて、笙子はそれが金属の鎖であることに気づく。指の囚われをそっとゆるめた笙子の目の前に、すとん、とぶら下がったもの、それは小ぶりな十字架だった。



 あれはいったい、なんだったんだろう。
 
 朝になって、洗面所に起き出して行った笙子と鉢合わせても、姉は「ちょっと待って」と場所を譲ってさっさと居間に行ってしまう。朝ごはんの席で母と卒業式の話をするところで目をあわせても、ごく自然な色の瞳に笙子自身が映るばかり。昨夜のことがまったくの夢だったように、笙子の方が不安になってしまう。あるいは、姉は笙子がまったく気づかなかったと思っているのか。
 けれど、先に家を出ようとしたところで、あともう少しゆっくりできるはずの姉が「待って、一緒にいくから」と玄関に追いかけてきたので、笙子はやっと安心して、見送りに出てきた両親に姉妹そろって「いってきます」と言えたのだった。
「いってらっしゃい、笙子。克美、またあとでね」
 わずかに姉を前にして、駅への道を歩く。昨夜姉のいるときに見た、ランドセルについて歩く自分の気持ちを、うっすらと笙子は思い出していた。
「ばかだよね」
 途中二つ目の交差点、大きな高架の道路の下をくぐる信号を待って立ち止まったとき、追いついた笙子が隣に立つのにあわせ、ぽつりと姉がつぶやいた。
 バレンタインデーに高等部にもぐりこんだあげく、ちょっとした騒ぎを起こした笙子にも姉は「ばか」と言った。けれど、たぶん姉が自分に向けたこの「ばか」は、そのときとはかなり違う気持ちがこめられているように、笙子には思えたのだった。
 笙子がそっと指先でセーラーカラーを押し開いた動きに気づいて、姉が目を落とす。昨夜自分の残したロザリオが、妹の首にかかっているのを見て、彼女はやわらかく苦笑いをした。
「いいよ。そんなの、外しなさい」
「お姉ちゃん、スールをつくろうと思ったことがあるの?それともこれ、誰かにもらったものだとか」
「ううん」
 信号が青になって、半分ほど横断歩道を渡ったところで振り返った姉は、「そんなんじゃないよ」と念を押した。
「それは私が買って、私が持っていたもの。ね、ばかでしょ?」
 そこで背をむけた姉の後ろに縛った髪は、それでもどこか軽やかで、楽しげに彼女の首筋の横で左右に揺れた。半分くらいシャッターの閉じた店のならぶ歩道に差し込んだ光は、春というにはあたたかみに欠けていたけれど、そのぶん透明で、まぶしかった。光のあたる場所を選んで歩くように進む姉の足跡をたどるように、笙子は地面に顔をむけて、飛び石をわたるように足を運んだ。
 駅の改札を抜けたところで、姉が遠くにむけて首を傾けた。ホームから上がってくるエスカレーターの手前あたりに、笙子は姉のクラスメートと思しき何人かが、並んでこちらを見ているのに気づいた。
「じゃあ、ここからは、ね」
 そう言って足を止めた笙子に、姉はくるりと全身で向いてうん、と頷く。そこで笙子は、さっき首から抜き出して手のひらに包み込んでいたロザリオを、姉に差し出した。
「私はずっとお姉ちゃんの妹だから。こんなのなくっても、ね」
 ためらわず手を出して受け取った姉はもう一度「うん」と小さく、はじめて恥ずかしそうにあごをうつむけて笙子を見たのだった。
「じゃ、ね。ごきげんよう、笙子」
「ごきげんよう、お姉ちゃん。卒業式、がんばってね」
 お互い早口で挨拶を交わしてから、きびきびとした足取りで歩き出した姉の背中に、胸の底から焼け付くように熱いものがこみあげたけれど、やや細めた視界の中で、階段を下りていく彼女の頭のてっぺんまで見えなくなるまで、笙子は目をそらさず、奥歯をぐっと噛み締めていたのだった。

 卒業おめでとう、克美さま。








<了>

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