東方の三賢者・第三回(『みて春』最終回によせて)




何処とも知れぬ時間、闇の中に浮かぶ薔薇の館・・・。


聖「おっはよー・・っと。あれ蓉子、もう来てたんだー、早いねー」
蓉子「・・・・・」
聖「どうしたの、黙っちゃって?あ、入室の際『ごきげんよう』じゃなかったのが気にいらない?んじゃあらためてごきげんよう〜」
蓉子「・・・・・」
聖「まぁでもお互いもう卒業生なんだからさ、言ってみれば。でもなつかしーな、蓉子ったら言葉使いはもちろんお箸の持ち方にいたるまで口を出してくるんだもの、薔薇の館で一緒にお弁当なんて、正直最初は嫌でさぁ・・・」
蓉子「・・・・・」
聖「あ、わかった〜蓉子ったら夜ヒマなんでしょ?大学生になったというのに。駄目だよ勉強ばっかりしてちゃー。女子大生を謳歌せずに何が青春か!ってね、あはははは・・はっ!?」
蓉子、いきなり聖の襟首をひっつかむ。
聖「!?よ、蓉子、いったい・」
蓉子「・・・聖?(にっこり」
聖「ななななによ蓉子」
蓉子「『私、不機嫌に見えるでしょう?』」
聖「は?」
蓉子「『私、不機嫌に見えるでしょう?』」
聖「あ、はいそれは、もう」
江利子「そうよねえ。そのセリフカットされてたわねえ」
聖&蓉子「え、江利子・・・」
江利子「なに、お邪魔だった?」
聖&蓉子「違うっ!」

蓉子「ということで。アニみて第二期終わっちゃったわねえ」
聖「あーそうね。『みて春』」
江利子「総括でもやろうっていうの?」
蓉子「・・・そのつもりだったけど。ちょっと気分が乗らないわ」
聖「先述のセリフの件?」
江利子「原作165ページ4行目ね」
蓉子「・・自分でもわからないの。出番のカットされた聖や、最初から出る幕のない江利子にくらべれば、それは・・・と思うのだけど」
聖「・・・なんかすっごく」
江利子「カチンカチン来るんだけど」
聖「おでこに?」
江利子「きーっ!」
蓉子「祐巳ちゃんが私の不機嫌を控えめに指摘して、私がそれを認めて、ってただそれだけなのに、なんだかとても大事な場面を、フイにしたような・・・気がして」
聖「あなたが自分の『やきもち』を認める場面だからね。無理もないよ」
蓉子「というと?」
聖「紅薔薇の関わり方をね。直接というか、暗に示すというか、そういう場面だったような気がしてね。祥子はもちろんあなた、蓉子にしても祐巳ちゃんにしても実はとってもわかりづらい部分があって、でもそれは日常的に皆が隠しあっているようなやり方と要素なのよ」
江利子「・・・?」
聖「だから、あなたたちは主人公の属する薔薇として、魅力的なんだと思うけど。些細な場面やセリフのカットで、いちばんワリをくいやすいのも事実よね」

江利子「聖の言うことはわかるような、わかんないような・・・。ただこのアニみて全般を見かえして微妙に感じるのは『祥子って結局、どんな人?』」
聖「あなたがそれを言う?このピプシロホドン」
江利子「・・・・なによ」
蓉子「でも、そうね。アニメの最大の問題は、結局そこなのかも」
聖「うん」
蓉子「・・・祐巳ちゃんの視線はいつも祥子の方を向いている、って新聞部の子が言っていたけれど。主人公がそこまでの気持ちを抱くものの正体がぼやけているのでは・・ね」
江利子「祥子は魅力的な子よ」
蓉子「え?」
聖「な、なによいきなり、江利子」
江利子「薔薇の館で、私は二年をかけてあの子の魅力に気づいたわ。正直、そういうめんどくさいのは私の性にはあわないけれど。『青い傘』の青田先生の台詞ではないけれど、じわじわわかってくるよさがあるわ」
蓉子「・・・・」
江利子「早急に気が付くことばかりではない、なんてメッセージがアニメに込められているなんて思わないけれど。でも、人と人との付き合いには想像力は不可欠だわ、いつまでたっても」
聖「『あなたが好きなの』『私も、お姉さまのことが大好きです』・・・祥子が宙ぶらりんな位置にあると感じていた人にはピンとこないかもしれないけど・・・」
江利子「僭越だけれど、アニメのラストではじめて祥子、が気になった人は探してあげて欲しいのよ。あの子の気持ちを・・・。きっと祥子は、あなたがたどり着くまで部屋の中でベッドに突っ伏しているわ」
聖「あっはは、なによその表現。でも当たってるかも」
蓉子「あの子、そういうところはお嬢様なのよねえ・・・」

聖「アニメの総括だか最終回の感想だかわからなくなったけれど」
江利子「まあ、いいでしょ。蓉子、機嫌直った?」
蓉子「・・・別に、そんなに不機嫌だったわけじゃ」
聖「ほんとは傷ついていたんでしょう?『私じゃダメ』な姉を挽回するシーンがなかったしね」
江利子「7時40分まで放送があればね・・・」
蓉子「野球中継じゃないんだから」
聖「と、いうことでここで唐突におハガキのコーナー。東京都にお住まいのSさんから〜」
江利子「?そんなコーナーあったっけ?」
蓉子「なによ、聖、いきなり・・・」
聖「まあまあ。・・・『先代三薔薇さま方、ごきげんよう。お三方の忌憚ないトークをいつもハラハラ、ハンカチを破りそうになりながら拝聴しています』」
蓉子「あ・・・・」
聖「『今回は特に蓉子さまに。・・来てくださってありがとうございました。甘えてしまって、ごめんなさい。お姉さまには、いつも感謝しています』」
江利子「・・なるほどねえ」
聖「同じく東京都にお住まいのYさんからも感謝の言葉が来てるけど。渡しておくから、自分で読んでね」
蓉子「・・・ええ。ありがとう」
聖「さあてと、打ち上げにいくかー、蓉子、一緒にいく?」
蓉子「私は、もうちょっとここにいるわ」
聖「そっか。・・・江利子、つきあうでしょ」
江利子「しょうがないわね、積もる話もあることだし」
聖「蓉子、戸締りしといてね〜それじゃっ」
江利子「ごきげんよう」

一人、薔薇の館に残った蓉子、ゆっくりと淹れた紅茶のカップを口にはこぶ。
蓉子「・・・ごきげんよう」




おしまい

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